生命は変化のプロセス

 自然農法では、自家採種が重要な取り組みのひとつになります。自然農法の創始者、岡田茂吉氏は、自家採種の目的を次の2点に集約しています。「種の肥毒を抜く」「風土に順応させる」。種の肥毒を抜くというのは、解りにくい概念だと思いますが、農学的に言えば、大量の肥料が無ければ育たないという「高栄養依存型」から、肥料を必要としない「低栄養自律型」の種に変化させるという事です。現在、市販されている種の多くは、肥料を前提とした育種をされていますので、私達自然農法の生産者は、自家採種を続け、無肥料でも元気よく育つような生命力の強い種に育てていきます。

 私の農場では、長い間「伏見甘長」という品種のししとうを作っています。この種を採る時には、畑にある全てのししとうの中から、いいものだけを選んで印を付け、その樹からのみ自家採種をします。その際、樹勢、樹の形、病気の有無、実の形、葉や実の色、そして味までチェックして印を付けていきます。この作業をしているときは、生のししとうの食べ過ぎでお腹がいっぱいになってしまいます。そうやって、いいものを選抜して種を採っていくことを「選抜育種」といいます。選抜育種とは種を育てていくこと。ただ種を採って命をつなぐだけでなく、育てていきます。土を育てる。種を育てる。そして、作物を育てる。作物を育てるように種も育てていきます。それが、私達自然農法の生産者がやっている事です。

 「選抜育種」は、言葉を換えると、「品種特性を守る」ことだともいえます。自分の畑の風土に合ったその作物の特徴を、崩れないように維持していくのです。品種特性というのは個々の特徴の表現です。個々の個性です。個性は人間だって大切にされるべきですね。自分と違うものがあってはじめて、自分とはどんな人間かを知ることが出来るからです。品種特性を維持するという事は、この野菜はどんな野菜なのかを明らかにすることだと言えます。私達の人生の目的も、「自分はどんな人間かを宣言し、表現すること。」だと言ってもいいでしょう。そして、種は一定ではなく毎年変化しています。しかも良くもなれば実は悪くなることもあります(悪くなるというのは相対的な意味で使っていて、生産現場で使う種としては悪くなるという意味)。生命は変化。生命=変化。これは自家採種が伝える大きなメッセージのひとつです。生命は常に変化をしています。変化を止めたら生命は死にます。だから変化しない生命はありません。その変化の中で、意図的にある品種特性を維持しながら良い種に育てていくことが「選抜育種」です。

 種だけでなく、全ての生命は変化し、循環しています。雪の結晶が溶けて液体となり、それが水蒸気になり、また雪になって戻ってくるように。人の命も形は変えますが亡くなりはしません。大切なのは、結果ではなくプロセスだと気付いたとき、頂点に立とうとか、成功しようともがくのを止めて、今「愛するか、愛し損ねるか」だけが重要だと思うようになりました。

橋本 進

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