不足という幻想

 私のナスの畑に見学者を案内すると、本当に肥料を使っていないのかとよく聞かれます。まるで肥料を与えたかのように立派に生育しているからです。無肥料でレタスくらいは育っても、ナスが育つことなんかあり得ないというのでしょう。そのナスの株元の土を採取して顕微鏡で覗いて見ると、有用な菌が存在していて、その菌糸がナスの根っこの中にまで侵入しているのがわかりました。つまり、ナスと土壌中の菌が共生しながら栄養を交換し、お互いを活かしていたのです。最近の農学の分野では微生物の研究が相当進み、このような共生関係は、肥料を与えた環境では起こりにくいという事実が解ってきました。無肥料である事が、大自然の生産メカニズムが働く条件であるようです。だとすると、今まで土を肥やす目的で使ってきた肥料は、大自然の力を麻痺させていたことになります。

 また、ある年に自家採種の種で栽培したピーマンと、市販の種で栽培したピーマンを並べて植えた事がありました。もちろん同じ品種のピーマンで、同じ日に種を播き、同じように栽培しました。結果は一目瞭然。自家採種のピーマンのほうが、明らかに立派に成長しています。自然農法で自家採種した種には、その土壌中の菌の胞子が付着しており、翌年種を播いた時、菌は眠りから覚めて、前年の共生関係の続きを速やかに再開します。私たち自然農法の生産者の経験から、自然農法で自家採種を続けた種は、微生物との共生能力が強いように感じます。つまり、無肥料でもどんどん育っていくようになるという事です。だとすると、市販の消毒種子やコーティング種子などは、これまた大自然の力を発揮させないようにしている事になります。
 大自然は、人類が豊かに生きていくために必要なものを全て備えていて、はじめから何も不足しているものはありません。私達が肥料に依存した時、私達が大自然を信頼しない時、有り余るほどの豊かさがあったのに、突然、充分でなくなります。肥料を与えなければ出来ない。農薬に頼らなければ、食糧を充分に確保できない。つまり、「足りなくなるという幻想」を抱くようになります。

 「足りなくなる、充分にない」という考えは、私達の心の中に大きな不安を生み出します。不安は人間の最大の敵です。実際、世界中には食べ物が足りなくて、飢餓で苦しんでいる国がたくさんあります。でも本当は足りないのではなくて、ある一部の国がたくさん奪うから足りなくなるだけで、本当は充分にあるのです。大自然のメッセージは、必要なものは全て充分にあると言っています。私達がそれを知った時、“自分の取り分”の為に、闘ったり争ったりする必要はないことに気が付くでしょう。充分にあるのだから、たくさんかき集めるのではなく、たくさん分かち合えば、たくさん受け取れます。

 「私達は生まれた瞬間からもうすでに豊かである」というのが、自然農法が伝える大きなメッセージです。

橋本 進

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